2023年12月に、STARTUP HOKKAIDOと共催で「ファームノートサミット2023」を開催いたしました。ファームノートサミットは参加者全員の真剣な議論から知恵を出し合うことで社会的インパクトの創出を⽬指しています。2014年から今回で11回⽬の開催、のべ約4,000名の⽅々にご参加いただいてきました。
今回のテーマは「『生きる』を、つなぐ。北海道から、持続可能な地球を共創する。」。北海道や地球が抱える課題に対して何ができるかを明らかにすることを目標に、サスティナビリティや人財マネジメント、街づくりなどのテーマ別に25ものセッションで白熱した議論が交わされました。また、協賛企業の展示や、道内外のスタートアップが競うピッチコンテスト、参加者同士の出会いの場となるネットワーキングイベントも行われました。
課題解決へのマインドセットやアイデアの数々が披露されたセッションの様子をレポートします。
「大企業とスタートアップの共創」と題したセッションでは500社以上の上場支援を手がけたタスク代表取締役の竹山徹弥氏と、元パナソニック代表取締役専務で現在は数々のベンチャー支援に携わる創援代表取締役の榎戸康二氏が登壇。モデレーターは本サミットの主催者、ファームノートホールディングス代表取締役の小林晋也氏が務めました。
はじめに小林氏が「私のようなスタートアップが大企業の力を借りるにはどうすべきなのか」と問いかけスタート。竹山さんは上場を支援する企業の立場から、また榎戸さんは大企業がスタートアップをどう見ているかという点から、それぞれ事例や経験談を展開しながら議論を進めました。
竹山、榎戸両氏が強調したのは、大企業とスタートアップは十分win-winの関係になれること。榎戸氏は「リスクを許容しにくいビジネス環境となり、大企業は新規事業を作るのに苦しんでいる」とし、「多くの企業がCVCを作ってベンチャー企業やスタートアップの力を借りようとしている」と、大企業を取り巻く現在のビジネスシーンを解説。スタートアップは積極的に大企業やCVCにアプローチすべきとの認識を示しました。竹山氏は「ベンチャーやスタートアップはとにかく資金が必要。いまは大企業にレバレッジを取りに行くチャンスだ」と期待感を示しました。
大企業とスタートアップ間のコミュニケーションが大事になる点についても意見が一致しました。「スタートアップは自分たちの事業の説明ばかりして、どのように一緒に組むのかというプランが出てこない」と竹山氏。企業文化や企業風土の違いを理解した上で、両者で事業にどう取り組んでいくのかを丁寧に説明する必要性を説きました。榎戸氏は大企業もスタートアップ側の話をよく聞くべきだと指摘しました。
地方の活性化における大企業とスタートアップの連携について榎戸氏は「我々のような異端児やスタートアップが地方で何かを起こし、流れを作ると大企業が目をつける。そこでレバレッジをかけるという方法は良いと思う」と提言しました。
また、スタートアップが持つべき視点として、市場が世界にあることを認識すべきとの意見が出されました。榎戸氏は「世界の市場をこういう順番で攻略する、その中に日本が含まれるというスタンスが大事。日本だけを見ているプランだと大企業の興味は薄れる」と厳しい見方を示しました。これを受け竹山氏は「例えばシンガポールは5%しかない食糧自給率を30%に上げようとしている。そこにスタートアップが入り込む余地がある。貢献できる可能性が高いと思う」と話しました。
セッションの締めくくりとして榎戸氏は「大企業とスタートアップは両者の視点が違うことを知った上で、相手にどうメリットを与えるか、相手からどうメリットを引き出すか、お互いにレバレッジを使ってほしい」と締めくくり、大企業、スタートアップ双方にエールを送りました。
「地域からグローバルへ」と題したセッション。GRA代表取締役の岩佐大輝氏をモデレーターに、キッコーマン代表取締役専務執行役員の茂木修氏と、日本農業代表取締役CEOの内藤祥平氏が、自身の経験から日本企業がグローバルにビジネスを展開する際に必要な視点を披露しました。
セッション序盤、茂木氏の「現地の味になる」との一言が参加者の心をつかんだようです。現地の味とは現地の社会にとって価値のある商品になるという意味です。1950年代にアメリカに進出して以来、世界9カ所に工場を作り醤油を販売しているキッコーマン。醤油が日本食に使われている割合は5%程度で、残りはバーベキューソースなど幅広い料理に活用されているそうです。そこに至ったのは醤油を知らない土地に進出した際、店頭での試食販売など地道な取り組みでマーケットへのアプローチが実を結んだといえます。「まず味わってもらう段階を踏まないと買ってもらえない。おいしいとわかってもらえたら、使い切ってもらうまでのレシピを提案する。スーパーのチラシに載せたり会社のホームページに載せたり、今も年間200レシピほど提供している」と、茂木氏は努力の一端を明かしました。
一方、食では保守的とされるインドへの進出時は、20〜30代の取り込みがカギだと考えていたそうです。茂木氏は「若い世代は欧米に渡る人も多く新しい食文化に触れている。新たな時流を捉えていかにビジネスを伸ばしていけるかが大切」と力説しました。
青果の輸出を手がける内藤氏は、タイでのリンゴ販売を例に市場開拓の取り組みを説明しました。内藤氏によればアメリカ産やニュージーランド産のリンゴが1玉110〜120円なのに対し、日本産は150円。ただ、昨今の円安で相対的に価格差が縮まっていることを受け「さらに10円でも20円でも下げる挑戦がマーケットを一気に広げるためには大事」と、コスト戦略の必要性に言及しました。
とはいえ価格競争だけでは限界があります。マーケット全体を考えると、どこで作るか、どう運ぶかといった生産の上流から下流まで見据えた戦略が必要とのことです。内藤氏は現地生産にも取り組み、日持ちがしないイチゴをタイ北部で生産しています。
「食べたお客さんが感動するほどおいしい品種を作れているので、とてもチャンスを感じる」と、内藤氏は手応えを感じています。一方、現状では病害虫や気候、インフラ面の課題から採算ラインには乗っていないとも。収穫に合わせてPDCAを回していますが、年単位の時間軸で考える必要があるようです。それでも内藤氏は「自分たちが取り組んだノウハウを確認しなが日々前へ進んでいる」。日本の青果物は品質で他国をリードしているだけに、一度フォーマットが出来上がれば大きな強みとなりそうです。
海外進出に必要なマインドは社長のリーダーシップにかかる部分が大きいと茂木氏は話します。「会社が変化しないと行けないと決めた時に、きちんと社員に伝えて理解させ、一緒に変えていく。成功するまでしっかりやり通す姿勢が必要なのでは」。茂木氏の主張に、多くの参加者が頷いていました。
「よなよなエール」を製造しているヤッホーブルーイング代表取締役社長の井手直行氏は、ビールを軸にファンづくりやコミュニティづくりが進む事例を紹介。「よなよなエール」は国内外に多くのファンを持ち、イベントを開けば5,000人も集まるそうです。「飲んだ高揚感からその場に居合わせた人と話しもするし、友達もできる。お酒ならではの人のつながり方がある」と井手氏は強調しました。
地元ワインのブランディングのため「針の穴を通すようなマーケティングをした」と語ったのは、余市町の齊藤啓輔町長です。ワインは食事と切り離せないため、北海道の料理とイメージが近い北欧料理に着目。コペンハーゲンにある世界的に有名なレストランと交渉しワインを置いてもらいました。この情報が世界中のワイン通や食通に広まり、価値が一気に上がったそうです。「明確なターゲットを設定しプロモーションをきちんと行えば、地方自治体でもファン作りができる」との言葉には、強い説得力がありました。
上川町に酒蔵をはじめチーズ・パン工房も持つ上川大雪酒造代表取締役社長の塚原敏夫氏は、地域が誇れる地酒へのこだわりをにじませました。その例として挙げたのが北海道産のJAS有機米を使った日本酒。日本酒は精米歩合で価格が決まりますが「2,000円程度の日本酒もJAS有機米で作ったオーガニックな日本酒を海外に持って行けば3万円になるケースもある」とのこと。塚原氏は「北海道の米を使い、北海道ができることで評価してもらい、価格を決められるようにしたい。小さな酒蔵だからこそチャレンジできる」と意気込みを語りました。
今後の取り組みについても3人がそれぞれアイデアを披露しました。井手氏はプロ野球北海道日本ハムファイターズの本拠地エスコンフィールドHOKKAIDO内に開設したビアバーの人気ぶりを紹介した上で、「近いうちにエスコンで球団と一緒にファンイベントを開きたい。新しい地域コミュニティづくりにつながるのでは」と期待しています。また、大阪・泉佐野市に体験型のブルワリーを計画していることも説明しました。
齊藤町長は、ペルーのレストランが伝統的な料理を現代風に調理して注目を集めていることを引き合いに、「北海道に当てはめると、アイヌ民族の伝統料理と新しい調理技術のコラボレーション。これができれば料理そのものが旅のディスティネーション(目的地)になるかもしれない」と話しました。
塚原氏は「酒蔵を作るなら、本当に地酒を望んでいる地域から引っ張り込まれるように進出しないとうまくいかないが、そのような動きがある」と話し、」と話し、オホーツク地域で酒蔵を計画していることを明らかにしました。
セッションと並行して行われたピッチコンテスト「サステナブルインパクトショーケース」では1次産業や環境問題解決にかかわる道内外のスタートアップ12社が集結。ミカンやバナナの皮といった食物残渣を材料とする吸水性ポリマーを開発したEF Polymer(沖縄・恩納村)が最優秀賞に当たるGOLD賞を勝ち取りました。
どの会場も「熱を帯びている」との言葉がふさわしい実り多いセッションに。終了後も登壇者の周りに参加者が集まり、意見交換が続くほどでした。本気で世の中を変えるために行動したい人々による学び合い、つながりあいの数々。新たな挑戦や共創の芽が次々と誕生する、そんな期待感が高まります。
(取材/撮影/執筆:大崎 哲也 編集:ファームノートサミット事務局)